本の概要
この本はスウェーデン出身の医師であるハンス・ロスリング氏と、その息子夫婦の3人による共著です。
人々が世界の人口、教育、貧困などの現状に関してあまりにも間違った知識を持っていることに危機感を抱いた著者が、
「事実に基づいた世界の見方を広め、人々の世界にまつわる圧倒的な知識不足をなくす」
ためにこの本を書き上げました。
著者は人々の知識不足の原因が、人間が持つ
「ドラマチックな物語を求める本能と、ドラマチックすぎる世界の見方」
であると考えています。
そして、以下に示すドラマチックな10種類の本能
- 分断本能:「世界は分断されている」
- ネガティブ本能:「世界はどんどん悪くなっている」
- 直線本能:「世界の人口はひたすら増え続ける」
- 恐怖本能:「危険でないことを、恐ろしいと考えてしまう」
- 過大視本能:「目の前の数字が一番重要だ」
- パターン化本能:「ひとつの例がすべてに当てはまる」
- 宿命本能:「すべてはあらかじめ決まっている」
- 単純化本能:「世界はひとつの切り口で理解できる」
- 犯人捜し本能:「誰かを責めれば物事は解決する」
- 焦り本能:「いますぐ手を打たないと大変なことになる」
がもたらす思い込みに関して、豊富な図表とデータや著者の人生経験を交えて詳しく解説するとともに、これらの本能を抑えるための様々な方法を紹介しています。
最後には、この本で得た知識を日常生活で活かす方法についても言及しています。
この本の中で印象深かった点
人間はチンパンジーに負ける
本の冒頭には世界の事実に関する13問の3択クイズが載っています。
うち1問は簡単でほとんどの人が正解できるのですが、残りの12問の平均正解数はわずか2問だったそうです。
私もやってみた結果、12問のうち2問しか正解できませんでした。
3拓なのでチンパンジーが当てずっぽうに選んだとしても4問は正解できることになります。
つまり、多くの人間はチンパンジーにすら勝てないということです。
この事実はとても衝撃的であり、私自身非常に悔しいものでした。
しかし、本書を読み進めていくにつれて
「人々が世界の現状を誤解してしまっているのは、人間という生き物にもともと備わった様々な本能のせいであり、ある程度仕方のないことなのだ。」
ということが分かり、少し安心しました。
その一方で、人間の本能というものの根深さや恐ろしさを改めて認識することにもなりました。
「わたしたち」と「あの人たち」の2つに分けたがる
本書では10個の本能のうち「分断本能」を最初に紹介しています。
それは、世界の人々を
- 「先進国」の「わたしたち」
- 「途上国」の「あの人たち」
の2つに分け、その間には決して埋まることのない溝があると思い込む本能です。
この部分を読んで、非常に痛い所を突かれたな…と私は感じました。
『自分は日本という豊かな国に住んでいて、貧しい国に住んでいる「あの人たち」とは見えない大きな壁で隔てられている。』
そんな風にどこか無意識に見下している自分の醜さを突き付けられた気がしました。
このように先入観で世界を2つに分けるのは誤りであると著者は述べています。
ではどうすればよいかというと、所得レベルに応じてレベル1~4の4つのグループに分けるのが正しいというのが著者の主張です。
レベル4の裕福な暮らしをしている我々は、レベル1~3の人たちをまとめて「途上国に住む貧しいあの人たち」と見なしてきました。
ですが「貧しい」と全て一括りにするのは短絡的な見方であり、貧しい中でも実際は所得に応じて暮らしが段階的に変わっていきます。
そんな当たり前のことすら分かっていなかったのだと情けなさを感じました。
無意識に世界を二つに分け、深層心理では途上国の人たちを見下し優越感を抱いていた自分の賤しい心を改めていこうと思っています。
「悪い」と「良くなっている」は両立する
2つ目の本能としては「ネガティブ本能」が紹介されています。
ネガティブ本能とは「物事のポジティブな面よりもネガティブな面に気付きやすい」という本能です。
この章を読むと、人間という生き物は何が何でも世の中をネガティブに考えたがるのだな…と感じさせられます。
- グローバル化で世界の情報を知りやすくなった
- 悪いニュースの方が広まりやすい
- 小さな進歩はニュースにならない
- 昔の思い出は美化されやすい
- 世界は良くなっていると考えることは、苦しい生活をしている人に対する罪悪感を伴う
といったことが原因とのことですが、それを考慮しても人類は超ネガティブ志向だとつくづく感じました。
そんな偏った思考回路を改善する方法の一つとして、
「悪い」と「良くなっている」は対立するのもではなく、両立するものだ
という認識を持っておくことを著者は推奨しています。つまり、
「世界は何もかも順調だ」なんてただ楽観的に考えるのではなく、
「世界はもう駄目だ」なんてただ悲観的に考えるのでもなく、
事実をもとに「世界にはまだ様々な問題が存在するけど、少しずつ前進している」のだと考える。
ということです。
そう、極端な二者択一の考え方ではなく、現実を正確に把握しバランスの取れた見方をするのが重要だとは私も常々感じており、著者と同意見です。
いわゆる「中庸」という考え方です。
世界にはまだまだ課題が山積みで、飢餓や貧困、戦争などで苦しんでいる人は多くいる。
でもその陰で頑張っている多くの「名もなきヒーロー」のおかげで確実に世界は進歩している。
そう素直に受け止められる心でありたいものだ、と思いました。
著者の熱い思い
この本全体を通じて、主著者であるハンス・ロスリング氏の情熱が伝わってきました。
冒頭にはこんな記載があります。
わたしは人生をかけて、世界についての人々の圧倒的な知識不足と闘ってきた。
この本は、わたしにとって本当に最後の闘いだ。
何かひとつ世界に残せるとしたら、人々の生き方を変え、根拠のない恐怖を退治し、誰もがより生産的なことに情熱を傾けられるようにしたい。
また、本の最後にはこうも書かれています。
わたしは知識不足と闘い、事実に基づく世界の見方を広めることに人生を捧げてきた。
時にはイライラすることもあったが、最高に心がときめく、喜びに満ちた生き方だった。
果たして世の中のどれだけの人が、ここまでの決意と情熱を持って、人生を駆け抜けることができるだろうか…?
実際、そんな人はほとんどいないのではないかと思います。
この世における自分の使命を見出し、そこに人生を捧げ切ったハンス・ロスリング氏が正直私は羨ましい。
そんな生き方をしてみたい。
私が全身全霊で情熱を捧げられることは一体何なのだろうか?
この本をきっかけに、真剣に探してみようと感じました。
まとめ
以上、今回の記事では【FACTFULNESS(ファクトフルネス)】の本を紹介しました。
本書を読むことで、誰もが持っている「世界の現状に対する誤解」を解き、正しい知識を得るための方法を身に付けることができるでしょう。
ビジネスや国際交流、一般教養など生活の様々な面できっと役立つと思います。
あらゆる人にオススメの一冊です。
最後に1点、直接本文の内容ではなかったので触れてきませんでしたが、訳者あとがきの上杉氏のコメントが非常に素晴らしく印象的なので、ぜひ読んでみてください。
「間違いを認めて許す」ことの大切さについて書いてあります。